東京地方裁判所 昭和42年(ワ)5322号 判決 1969年6月16日
原告 福原道也
右訴訟代理人弁護士 渡辺邦之
被告 落合昌良
右被告落合訴訟代理人弁護士 戸田孔功
被告 藤村幸人
被告 阿部豊
右被告阿部訴訟代理人弁護士 竹原茂雄
主文
被告らは各自原告に対し
(一) 金一九三万三四九六円
(二) 金四七万一六八五円
(三) 金三四万三〇四三円
の各金員と、右(一)の金一九三万三四九六円のうち金五〇万円に対し昭和四〇年一〇月一六日以降同年一二月二五日まで年九分、昭和四一年一月二六日以降その支払いが済むまで年一割八分、その余の金五〇万円に対し昭和四〇年一〇月一六日以降昭和四一年一月二五日まで年九分、同月一六日以降その支払いが済むまで年一割八分、残余の金四三万三四九六円に対し昭和四〇年一〇月一六日以降昭和四一年二月一五日まで年九分、同年三月一日以降その支払いが済むまで年一割八分の各割合による金員を、右(二)の金四七万一六八五円に対し同年四月一日以降その支払いが済むまで年一割八分の割合による金員を、右(三)の金三四万三〇四三円に対し昭和四〇年一二月三一日以降その支払いが済むまで年一割八分の割合による金員を各支払わなければならない。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は五分してその一を原告の、その余を被告らの負担とする。
この判決は原告勝訴の部分に限り原告において金五〇万円の担保を供して仮に執行することができる。
事実
<全部省略>
理由
一、請求原因(一)の事実について
<証拠>によると次のような事実を認めることができる。
原告は、訴外三商の代表者(代表取締役)をしていた被告藤村の依頼により、いずれも訴外落合石匡商事株式会社振出、訴外三商の裏書のある約束手形により次のとおりの貸付をした。
(1) 昭和四〇年八月二一日頃、二〇〇万円を、期限を同年一〇月一五日、利息を日歩一〇銭と定めて貸付けた。ただし、右二〇〇万円については、期限まで五六日間の利息として一一万円を天引し、更に、訴外三商の代表者である被告藤村の同意を得て既に、訴外三商に対して貸付けてあった別口の貸付金五〇万円および、他の別口の貸付金の利息八万一二三四円の弁済に充てたものとして五八万一二三四円を差し引き、その他訴外三商に対する立替金の支払として九四九五円を差し引いて結局現金としては一二九万五〇〇〇円を被告藤村に交付した。(右一二九万五〇〇〇円受領の点については被告藤村において争いがない。)右貸付金は同年一〇月一二日被告藤村の申出により同年一二月二五日、五〇万円、昭和四一年一月一五日、五〇万円、同年二月一五日五〇万円、同年二月二八日、五〇万円に期限が猶予された。
(2) 同年八月三一日頃、五〇万円を、期限を同年一一月一五日、利息を日歩一〇銭と定めて貸付けた。ただし、前同様訴外三商の代表者である被告藤村の同意を得て右五〇万円のうち、別口の債権の返済として一三万円を差し引き、期限までの利息として三万九〇〇〇円を天引きし、他の別口の債権の利息の支払いとして三万二七五円を差引いて、現金としては三〇万一〇〇〇円を、訴外三商の常務取締役をしていた訴外鈴木に交付した。
(3) 昭和四〇年九月中旬頃、三五万円を、期限を同年一一月一〇日、利息を日歩五銭と定めて貸付ける旨の契約をし、利息として一万五九二五円を天引きし、前同様被告藤村の同意を得て別口の債務の利息として二六八五円、他の別口の債権の元金の一部の弁済として二万円を差し引いた残金として、同年九月二二日に九万円、同月二四日に一四万五〇〇〇円、同月二六日に七万六〇〇〇円の現金を交付した。
以上のとおり認められ、特に右認定を覆えすに足りる証拠は見当らない。
請求原因(一)(2)の事実については、原告本人尋問の結果(第一回)によると、訴外神田こう一郎が貸付けたもので、原告はその保証人となったに過ぎないものと認められ、他に原告主張のように、原告において貸付けたものと認めるに足りる証拠はなく、また右貸付金債権が原告に帰属する旨の何らの主張もない。
二、請求原因(二)の事実について
<証拠>によると、訴外三商の代表者である被告藤村は、請求原因(一)(3)の貸金のため原告に交付してある訴外落合石匡商事株式会社振出、訴外三商の裏書のある約束手形が、その支払期日である昭和四〇年一一月一五日に支払いできない状態であったため、原告にその猶予を求めていたところ、原告と折衝の結果、同月一四日、原告との間で、前記各貸付金合計(請求原因(一)(2)の貸金をも含めて)三三五万円につき、その弁済方法としてつぎのとおり約定した。
(一) 請求原因(一)(1)の貸付金二〇〇万円のうち、昭和四〇年一二月二五日に支払うべき五〇万円は昭和四一年一月二五日に、同じく同年一月二五日に支払うべき五〇万円は同年二月一五日に同じく同年二月一五日に支払うべき五〇万円は同年二月二八日に、同じく同年二月二八日に支払うべき五〇万円のうち二五万円は同年五月二〇日、残金二五万円は同年四月三一日に、請求原因(一)(2)の貸付金五〇万円のうち二五万円は同月二〇日、残金二五万円は同月三〇日に、請求原因(一)(3)の貸付金五〇万円のうち二五万円は同年三月二二日、残金二五万円は同月三一日に、請求原因(一)(4)の貸付金五〇万円は昭和四〇年一二月三〇日に各支払うこと。
(二) 右支払いを三回怠ったときは期限の利益を失う。
(三) 利息を日歩二銭五厘、期限後の損害金を日歩五銭とする。
右のとおり約定したものと認められ、右認定に反する証拠はない。
三、請求原因(三)の事実について
<証拠>を総合すると次のような事実を認めることができる。
原告は、請求原因(二)について前項において認定したとおり、昭和四〇年一一月一四日期限の猶予を認めるに際し、被告藤村に対しては借主であって、手形の裏書人である訴外三商の代表者として、被告落合に対しては、手形の振出人である訴外落合石匡商事の代表者として、被告阿部に対しては、右貸金につきこれを仲介し、原告にこれを持ち込んだものとして、それぞれ個人として右訴外三商の債務を連帯保証するよう要求し、もしこれに応じないのであれば右期限の猶予には応じられないとの意向を示したので、被告らもこれに応ずることとし、同日、前項において認定した、期限を猶予された債務全部につき連帯保証した。
その際、各被告らは、請求原因(一)(1)の貸金債務につき最初の期限である昭和四〇年一〇月一五日の翌日以降の日歩二銭五厘の割合による約定利息の支払いについても連帯保証した。
四、被告らの抗弁について
(一) 被告落合の抗弁
被告落合は、仮に被告落合が、原告主張の連帯保証契約をしたとしても右は通謀による虚偽表示である旨抗弁する。
しかし、右保証契約がなされるに至った経緯は既に請求原因(三)について判示したとおりであって、右事実に徴するときは、右連帯保証契約が通謀による虚偽表示であるとは到底考えられない。<省略>。
(二) 被告の藤村の抗弁について
被告藤村の主張するとおりの事実があったとしても、(原告主張の各貸金が専ら、訴外三商と原告との間の既存の債務の弁済のためになされたものでないことは既に請求原因(一)の各事実について判示したとおりである)被告藤村が主張するように直ちに、原告と訴外三商との間の既存の債権債務関係に復すべきものということはできないから、被告の抗弁は理由がない。
(三) 被告阿部の抗弁について
通謀虚偽表示の主張が理由のないことは、既に被告落合の抗弁について判示したとおりである。
また、原告の、被告阿部に対する連帯保証契約上の責任は追及しない旨の言を信じて連帯保証契約をしたから、詐欺により取消す旨の主張は、帰するところその事実関係において右通謀虚偽表示の主張と同じであり、かかる事実の認められないこともまた右と同様である。
以上のとおりであるから、被告らの抗弁についてはいずれも採用することができない。
五、天引による超過利息の元本充当について
請求原因(一)(1)の貸付金につき、原告において期限までの利息として一一万円を、同(一)(3)の貸付金につき同じく三万九〇〇〇円を、同(一)(4)の貸付金につき同じく一万五九二五円を各天引きしたことは既に判示したところである。
被告藤村は右(一)(1)の貸付金については利息として二〇万円を天引された旨主張するが、同主張のうち右認定の額を超える部分についてはこれを認めるに足りる証拠はない。
被告藤村はその余の貸付金につき、その余の被告らはいずれの貸付金についても天引の主張をしていないが、金員交付の事実のすべてを否認しているので、結局原告において、金銭消費貸借契約における要物性の要件を充足するに足りる金員交付の事実を立証を要するところ、その立証の結果、金員交付の態様として利息天引の事実が認められたときは、天引部分については利息制限法二条に照らし、一応要物性を充足するものではあるが、それは同法条の適用を前提とするものであるから、金員交付の点に争いがあって天引の事実が認められる以上天引された旨の被告の主張がない場合であっても利息制限法二条の適用があるものと考えられる。
そこで、右各天引について、これを利息制限法二条の定めるところにより、同法一条に従って、貸付期限までの制限内利息額を算出し、これを超える部分を元本の一部の弁済に充当したものとすると、各貸付金の元本の残額は、計数上別紙計算書記載のとおりとなり、請求原因(一)(1)の貸付金の元本額は一九三万三四九六円、同(一)(3)の元本残額は四七万一六八五円、同(一)(4)の元本残額は三四万三〇四三円となる。
(結論)
以上のとおりであるから、被告らは、原告に対し、
(一) 請求原因(一)(1)の貸付金残金として一九三万三四九六円
(二) 同(一)(3)の貸付金残金として四七万一六八五円
(三) 同(一)(4)の貸付金残金として三四万三〇四三円
の各支払と、これに対する約定利率のうち、利息制限法の制限に従った割合による利息ならびに遅延損害金の支払いをしなければならないというべく、原告の請求は右の限度において理由があるので認容し、その余は失当として棄却する。<以下省略>。
(裁判官 川上正俊)